ページの先頭です。
本文へジャンプする。

本ウェブサイトでは、JavaScriptおよびスタイルシートを使用しております。
お客さまがご使用のブラウザではスタイルが未適応のため、本来とは異なった表示になっておりますが、情報は問題なくご利用いただけます。

ここからサイト内共通メニューです。
サイト内共通メニューを読み飛ばす。
サイト内共通メニューここまで。
サイト内の現在位置を表示しています。
ホーム > ソリューション・サービス > NECの取り組み > ビジネスクリエイターが語る新ビジネスへの取り組み > 第12回 創薬スクリーニング
ページ共通メニューここまで。

第12回 創薬スクリーニング

PDF印刷用ダウンロード(2.0MB)

バイオIT活用の“ドッキングシミュレーション”

複雑な鍵穴に合う鍵を、膨大な候補から探すような作業。それが「創薬スクリーニング」である。成功すれば医療的成功だけでなく、莫大な利益を生み出すといわれる新薬開発の裏側には、気の遠くなるような作業の積み重ねがある。標的とするタンパク質の細胞表面(鍵穴)にぴったりと結合して化学的な活性を発揮する物質(鍵)探しを「創薬スクリーニング」と呼ぶ。今、この作業はコンピュータ・シミュレーションによってもさかんに行われるようになっており、これを「in silico 創薬スクリーニング」と呼び、NECはその最前線にバイオITシステムを提供し、実績をあげている。

「21世紀はバイオの時代」といわれるが、ビジネス的に最も活気づいているといわれるのはバイオとITの融合領域だ。果たして、この分野にどんな課題が浮上しているのかを、NEC市場開発推進本部バイオIT事業推進センターのセンター長・野村豊と主任・津田健一郎に話を聞いた。

かつては“力ずく”だったという「創薬スクリーニング」

野村 豊 市場開発推進本部
バイオIT事業推進センター長
野村 豊

NECのバイオIT事業は、1985年にライフサイエンス分野の基礎研究を開始して以来、20年の歴史がある。とくに、2000年に「バイオIT事業推進室」(現バイオIT事業推進センター)が設立されて以来、研究から実用へと重点をシフトし、「研究支援」、「創薬支援」「診断支援」の3分野で目ざましい実績を重ねている。こうした取組みの概略については、このシリーズでも2003年に、「ITソリューションの最前線」として麻生川稔に話を聞いている。

その時、麻生川は、“NECの強みが発揮されている分野”として、「高速並列処理プラットホーム」「能動学習法スクリーニング」「診断支援ソリューション」などと並んで、「ドッキングシミュレーション」があると説明した。今回、野村と津田に聞いたのは、この「ドッキングシミュレーション」技術を用いた「創薬スクリーニング」という研究テーマだった。

バイオIT事業推進センター長の野村がアウトラインをこう説明する。

「創薬とは新薬を開発することですが、原理は、人体を構成する多様なタンパク質に結合することで何らかの薬効を発揮する化学物質を見つけることです。このような活性化化合物のことをリガンドと呼び、かつては片っ端から実験して確かめる “力ずく”のやり方でした。しかし膨大な手間と経費がかかります。そこでITを活用して、最適物質をコンピュータ上に設計しながらシミュレーションする方法に変わってきました。結合の可能性をシミュレーションするので、“ドッキングシミュレーション”と呼び、当初、数百万個もある候補物質から段階的にスクリーニングして、最終的に数個単位に絞ります。そしてその有望物質を合成し動物実験、臨床試験などを経て薬として製品化されます。」

野村によれば、この一連のプロセスを「創薬パイプライン」と呼ぶのだと言い、その図を示した。「創薬スクリーニング」とは、この最上流部の「標的探索」「リガンド設計」のプロセスを指す。

図1図1

新しいウィンドウでリンクを開きます。拡大画像

ページの先頭へ戻る


精度と速度のトレードオフを克服する“使い分け”技術

津田は、「『創薬スクリーニング』が製薬会社間の厳しい競争を勝ち抜く決め手になっている」と言い、その理由と技術的な難しさをこう説明する。

「制がん剤の開発などは10年から15年という時間がかかるといわれます。きわめて慎重に動物実験や臨床試験を行わなければなりません。無駄な試行錯誤はしていられないのですから、そこに至るまでに有効物質を絞り込むスクリーニング・プロセスは極めて重要です。しかし、絞込みの精度と速度はトレードオフの関係にありますから、理論的かつ技術的にもすぐれた方法で行わなくてはなりません。」

NECの考えるin silico創薬スクリーニングは3段階を経る。1次スクリーニングは、ごく大雑把な絞込みを行うもので、国内外で市販ないし公開されているソフトウェアもたくさんある。これで数百万個の物質から数千個に絞られる。2次のスクリーニングとなると、化学物質を構成する分子レベルの検討が必要になる。分子同士に働く力を計算するには、ビーズ玉がバネで繋がったようなモデルを想定した力学計算をしたり、分子が溶け込んでいる溶媒の持つ効果も加えて計算することになる。

「NECの場合、多くの物質が溶媒とする水を連続誘電体と見なし、イオンはボルツマン分布するとした『連続体近似』を採用し、さらにその中でのたんぱく質分子表面の活性部位を特定して、そこだけ他の部位よりもきめ細かいメッシュにして計算する『マルチグリッド法』を開発し、計算を高速化することに成功しています。」

図2図2

こうして2次スクリーニングで数千というオーダーが数百に絞られる。この先は現在のところ実験による最終的な絞り込みが行われているが、さらに近い将来、この先は3次スクリーニングによって、数十から数個に絞られることになる。ここでもNECが開発した独自技術が生かされる。

「タンパク質と化合物が相互作用する活性部位近傍については、QM(Quantum Mechanics:量子力学手法)での計算を行い、その周辺はMM(Molecular Mechanics:分子力学法)で計算する方法を組み合わせた『QM/MM法』というものです。重要なところだけ細かく高精度で計算する“使い分け”のアイデアとしては、先の『マルチグリッド法』と良く似ています。」

図3図3

ページの先頭へ戻る


誰もがF1カーを乗りこなせるわけではない。「それなら‥‥

津田 健一郎 市場開発推進本部
バイオIT事業推進センター
主任
津田 健一郎

ここまでの野村の話を聞きながら、ふと考えた。こうしたミクロ力学計算の技法の話を、新薬開発や病理学研究の“現場”の人たちならどう聞くだろう?「計算が高速にできそうなことは分かった。しかし、自分たちの現場ですぐ使えるのか?」と思うのではないか。もっと “現場”の事情に通じた話のカンどころがあるような気がしてならない。それに、先ほどから野村の傍でにこにこと話を聞いている若い津田の存在も気になる。野村にそのことを話すと、「そうなんです。だからここに津田くんがいるんです」との返事。どういうことだ?

「計算屋あるいはシステム屋としてできることだけを話しても、“現場”には響きません。筑波にある当社の基礎研究所で、大学などとのアカデミックな創薬研究プロジェクトをやってきた津田を、この秋、事業部門に招いたのは、“現場”に通じる提案力を強化したかったからです。」

では、“期待の星”津田は、創薬スクリーニングビジネスの課題をどう見ているのだろう?

「スクリーニングに用いる計算やITは、クルマでいえばF1カーなのです。非常に高速・高性能ではあるけれど、計算の設定や結果の判定などに高度なノウハウが必要になり、誰もが簡単に使いこなせるものではありません。それなら、F1システムを購入することを勧めるよりも、『ノウハウを持つ私たちが、計算を請け負いましょう』というソリューションが現実的だと思います。」

「創薬事業は激しい競争下で、全体が知的財産の塊ですから、各社とも外にデータを出したがりません。各社各様の取り組み方でやっています。しかし、より合理的な方法に切り替えねばならないという経営判断もある。ということは、私たちの技術やノウハウあるいは知財や守秘義務を重視する体制を理解していただければ、スクリーニング業務のアウトソーシングに踏み切っていただけると思います。その信頼関係の上で、バイオITに関する当社のリソースを見回していただければ、研究パートナーとなるお客様は獲得できるはずです。」

確かにNECの研究パートナーとなる企業や大学、医療機関の数は確実に増えており、周辺の事情や経緯を調べると、それらは共同プロジェクトなどを経験した固い信頼関係の基盤の上に築かれたものだ。ただし、それは自然発生的に築かれたものに近い。津田は、同じ目標に、もっと意識的、戦略的に、現場ニーズに応える方向から近づこうと言うのだ。

ページの先頭へ戻る


ホンネの底には、アンビシャスな熱気があった。

時間をかけて話していると、率直な言葉が出てくる。それがこのシリーズの狙いでもある。技術と人間、組織と個人、タテマエとホンネのぎりぎりの境い目まで見ないことには、筆者も書く気がしない。いや、それ以上に、読者も読む気になれないだろう。

野村と津田との話も、1時間を過ぎた当たりからホンネの話が出始めた。

「82年に入社し、衛星通信分野のSEだった私が、2000年になぜかバイオIT事業推進室長に任命された時は、『バイオ産業はこれからイケイケらしい。ラクできそうな仕事かな』と思った。ところがこれが大間違い(笑)。どこもバイオITにお金を出すなんて発想すらなくて、事業基盤から開拓しなくてはならない仕事だった。胃が痛くなる思いを重ねてきました」と野村は言う。また、先に、戦略的な慧眼をうかがわせた津田(95年入社)にしても、こんなホンネをぽろりともらす。

「研究所の頃は、とにかく『トンがった研究成果を挙げれば良し』でした。でも、この秋に事業推進センターに来て分かったのは、『稼げなければ明日がない』ということ。自分の経験や発想を、どこにどうやって活かせばいいのか五里霧中という状態なんです。」

しかし、不平や泣き言だけがホンネではない。大抵の場合、その底にはアンビシャスな熱気がある。

「この数年で、急速にツールが揃ってきた。国家プロジェクトや大学との共同研究など、リソースがオープンに共有できる仕事を通して、ノウハウも充実してきた。またパートナー企業とのプロジェクトによる成果も生まれた。これだけのタマは強い競争力になっている。」(野村)

図4:バイオITソリューション図4:バイオITソリューション

新しいウィンドウでリンクを開きます。拡大画像

「お客様の実際の研究テーマに、私たちのツールやサービスが生かされる実績を確実に増やして行きたい。モノを売るだけのコンピュータ屋ではなく、“現場を知っている仲間”だと認められたら、市場は一気に広がると思う。バイオITの基本的な技術が活用できる裾野は広いんです。」(津田)

最後に、野村が話した言葉が、彼らの事業の近未来図を描くものになっていた。

「バイオITビジネスはマラソンです。数十年というレンジで市場と技術が進化する。そのペースを見極めつつしっかりトップグループに属する戦略的な走り方が必要だと思います。それも自分の走りだけを考えていたらだめで、仲間を増やし、情報共有しながら走ることが大切です。力量を認め合うパートナーと、力を分け合いながら走るレース展開ができれば必ず勝てると思います。」

多士済々のメンバーによるこのビジネスレースの実況中継を、また、いつかやってみよう。

第12回 ライター:土屋晴仁(2005年1月7日)

ページの先頭へ戻る

Copyright NEC Corporation. All rights reserved.