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増え続ける"大切なデータ"を
安全かつコンパクトに収納するストレージ

世界最高クラスの性能を実現したSAN(Storage Area Network)対応ディスクアレイのハイエンドモデル「iStorage S4900」が発売されたのは2005年6月のこと。同製品は、日刊工業新聞社が主催する「2005年十大新製品賞 本賞」を受賞した。ディスクアレイ製品の受賞は業界で初めてのことである。
「十大新製品賞 本賞」は、毎年企業が開発し実用化した製品の中から優れた10点を厳選して表彰するものである。「iStorage S4900」の受賞理由は、世界最高クラスの高性能、きわめて高い信頼性と拡張性を有するなど、ディスクアレイ製品として、数々の優れた特性が認められたからにほかならない。
ハードウェアとソフトウェア技術の粋を結集して誕生した「iStorage S4900」は、最大容量257テラバイト、最大スループット性能7.5ギガバイトという業界最高レベルの記憶容量と性能を実現している。NECのストレージ製品群の中でも、フラッグシップ(旗艦)といえる製品だ。では、いったいこの製品はどのような背景から企画され、どのような技術を投入して生み出されたのだろうか。実際に製品企画、ハードウェア、ソフトウェア、それぞれの立場から陣頭指揮にあたった3人に話を聞いた。
システムストレージ事業部
滝柳の担当は、製品企画である。つまり、時代の先を読んで市場ニーズを深く洞察し、どのような製品が求められているのかを構想する。もちろん構想するだけではない。構想を具体化し、求められる製品として市場に送り出すために、どのような技術を採り入れればよいかをハード・ソフトのエンジニアとともに検討し、製品としての企画を固めてゆく。
受賞した「iStorage S4900」の企画立案に着手したのは2002年5月のことで、2004年4月に開発が本格化した。「企業の扱うデータは年々増大し、データに対する企業の価値観も次第に変わってきました」と、滝柳は当時を振り返る。
確かに企業の扱うデータ量は爆発的に増加している。ストレージシステムの出荷を容量換算した数字を見ると、この10年で100倍にもなっている。しかも、企業はデータの持つ情報としての価値を深く認識するようになってきた。情報の有効活用なくして適切な経営判断を下したり、事業の指針を立てたりすることが不可能であると、経営層も認識している。現在では、データをどう蓄積し、管理するかは、企業にとって重要な経営課題であるといっても過言ではない。
こうした状況を見通した滝柳は、ストレージをこう表現する。「ストレージは大切なものを格納するものです」と。
では、データが増え続ければどうするか。一般的に企業では、保持すべきデータ量に応じてストレージの数を順次増やしていくが、同時に、データを管理するコストも次第に増えるし、データの安全やセキュリティ対策投資も増えることになる。情報は欠かせないものだが、それを管理するコストの削減と情報保護や情報漏えい対策も、経営にとっては大切なテーマである。
「ストレージ装置の数を増やすのではなく、大容量のハイエンドストレージに統合すれば、スケールメリットが生まれ、また適用可能なソリューションが拡がるなど、ITシステム全体の最適化が図れます。しかし、大切なデータを1つのストレージで管理すれば、集中する処理に対して、きわめて高い性能が要求されます。加えて、ストレージを統合したが故に障害に対するリスクも集中する事になり、高い可用性、信頼性、情報保護機能も併せて実現する必要があります」"大切なものを格納する"からこそである。
滝柳自身もエンジニア出身であるだけに、それらの要素を同時に実現する難しさも十分承知している。とは言うものの、NECにはスーパーコンピュータで培った「クロスバスイッチ技術」等の高性能技術や、メインフレームで培った「フェニックス技術」等の高信頼・高可用技術など多様な技術がある。それらをストレージに活用し、また、ハード・ソフトのエンジニアたちの持つ高い技術ノウハウを引き出すべく、製品企画を詰めて行くうちに、世界最高レベルのテクノロジーリーダ製品を市場に送り出せ、しかも確実に受け入れられるであろうことを次第に確信していった。
システムストレージ事業部
滝柳ら製品技術部の製品企画を受け、ハードウェア開発のリーダーとして活躍したのが菱川である。
「S4900の製品化にあたり、制限がない白紙の状態のところからコスト、省エネルギー、省スペースなど全ての要素を勘案しながら、自由な発想で設計できることが何よりも面白いところでした。最適な形状、最適な構造体の製品ができるからです。」と菱川は語る。世界最高クラスという新製品開発は、大いにエンジニア魂を刺激したようだ。
菱川たちハードウェア開発メンバーは、LSI、プリント基板、制御用ファームウェアなど、「iStorage S4900」の心臓部にオールインワンで組み込むすべての部品を設計している。「製品設計では、細部にいたるまで目が行き届いている」と、自信をもって菱川は言い切る。だからこそ「お客様のニーズに合わせ、ファームウェアによるチューニングにもこまめに対応出来ます。
また、HDD並びに一部のLSIも市販品を使っていますが、海外も含めてベンダーとの密な交流を行い、技術的な内容すべての把握に努めた結果、ブラックボックス部分はない為、お客様が必要とするときの迅速な対応が可能となります。」と、採用するお客様にとってのメリットにつながることを強調する。
iStorageシリーズが初めて発売されたのは2000年のこと。以来、菱川たちは着実に技術を蓄積し、その1つの到達点として開発したのが「iStorage S4900」である。「iStorage S4900」の設計に投入した蓄積技術として、菱川は3つの例を挙げた。
「前機種では、クロスバスイッチ用LSIとして5種類を使っていましたが、S4900では機能の高度化により3種類への集約が出来ました。ファームウェアも高性能化の為、処理時間の観点から、ステップ数20%削減を目標に開発しました。
同様にクロスバスイッチ伝送技術の中心であるバックボードのプリント基板も層数半減化に努めました。」
こうした設計改善は、性能向上とコスト削減に直結する。プリント基板に関しては、プリント基板層数を削減することでさらなる高速化が可能になると共に、製品のバラツキやロスを減少させ、出荷後品質を含めたトータルコスト低減を実現している。
さらに菱川は、技術レベルの高さを物語る例として、次のように続ける。「プリント基板設計を間違えると、大きな後戻りにつながりますが、1回のミスもなく設計できた結果、開発日程の短縮が可能になりました。同様にファームウェアも従来機種との共通性に「こだわり」を持ち設計した結果、開発期間の短縮に大きく寄与しました。」と。ちなみにプリント基板やLSI開発に失敗すると、数千万単位の損失発生とともに、2~3ヵ月ものスケジュール遅延が起こるそうだ。
"ところで、開発段階での苦労は"と水を向けると、菱川は次のように答えた。
「いかなる装置開発でも各設計フェーズにて数限りない苦労を経験すると思います。その一方でS4900は、自分たちの手で全てを設計している為、成功も失敗も自らの責任となる事から技術者冥利に尽きる製品であると言えますし、今回、十大新製品賞 本賞を受賞した事によって、「自分たちは出来るんだ!」と、開発に携わった技術者全員の技術者マインドをさらに昂揚させる事が出来ました。この達成感が開発での苦労を忘れさせ、新たなる挑戦・開発への意欲を呼び起こす原動力になると信じております。」
第一コンピュータソフトウェア事業部
ハードウェアを担当した菱川らとタッグを組んでソフトウェア開発を担当したのが、倉知をはじめとする第一コンピュータソフトウェア事業部のメンバーだ。倉知は、SAN対応ストレージ用ソフトウェア製品群開発のポイントについて、次の2点をあげた。
1つは、優れた製品特性をいかに引き出すかである。そしてもう1つは、いかにストレージを運用するお客様のトータルコストを削減するかである。
「ストレージ製品を管理および制御するソフトウェアは、いかにお客様のニーズを満たし、しかもプラスαの価値を提供できるかにあります」と倉知は語る。そして「iStorage S4900」のソフトウェアについては、次のように続ける。
「大容量、大規模なストレージシステムの管理では、どう管理を集約するかがポイントになります」当然のことながら、システムが大規模であればあるほど、通常、管理は複雑になる。管理が簡便にできれば、使いやすさばかりでなく、コスト低減にもつながる。
「ソフトウェアの中でも中心となるのは、独自開発のWebSAM iStorage Managerです。このソフトウェアは、最上位機種のS4900からS500まで、Sシリーズ全製品の構成管理や設定、運転状況監視、運用連携などについて、一括して同一のビューで簡単に管理できます」と倉知。
WebSAM iStorage Managerの多彩な管理機能の中でも、特筆すべき機能に仮想化の技術を応用したダイナミックプール機能がある。これは、管理者が容易かつ柔軟なストレージ容量変更を可能とする機能で運用性と可用性を大幅に向上することができる。この「プール」という概念は、倉知らソフトウェア開発メンバーが考え、採り入れたものである。
ダイナミックプール
近年では、情報の価値が高まるにつれ、信頼性を高めるためのレプリケーション制御の役割の重要度は増すばかりである。この点「iStorage S4900」には、業務サーバのリソースを使わず、高速に複製を作成する機能が各種備わっている。
「同一装置内はもちろんのこと、遠隔地に設置してある別の筐体間でも、高速に複製の作成が可能です。したがって、データセンターや膨大なデータを保有する企業のディザスタリカバリ用としても、最適な製品です。また、ディスク容量を効率的に使えるスナップショット(差分複製)を柔軟な世代管理機能と共に備えており、この機能と組み合わせることによって、コスト削減のアプローチも可能です」と、倉知はレプリケーション機能活用のメリットを強調する。
レプリケーション
ソフトウェアの開発は、倉知のいる東京・府中市の事業場をコントロールタワーとし、全国に点在する国内各拠点と海外開発拠点を含めて行った。「ソフト開発はハードの試作品ができてから行うことが多く、どうしてもスケジュールがタイトになります」そこで、倉知たちは、現行製品に新機能をシミュレーションするファームウェアを搭載し、先行開発を進める、といった工夫をしている。また、開発のセンター機能を持つ府中事業場にストレージ全機種と必要数のサーバを設置し、国内外の開発拠点に配置した多数のクライアントとセキュアなネットワーク経由で接続、この評価環境を駆使したリモート評価により効率化を図っている。ソフトウェア開発においても、ハードウェアと同様、NECには技術の蓄積があったからこそ、こうした開発形態も可能なのだ。
倉知は「コントロールタワーとして苦労したのは、ハードウェアの進行状況や各拠点におけるスケジュールのすり合わせであった」と述懐する。倉知たちの緻密な開発管理の努力もあり、当初の予定どおり「iStorage S4900」は市場に送り出されることになった。
滝柳は、今回の受賞について改めて振り返り次のように語る。
「従来ストレージは周辺装置の位置づけでした。しかし、現在ではSANに使われるストレージがシステム構成図の中心に置かれるように、情報そのものの価値が向上していることを示しています。十大新製品賞 本賞を初めて受賞したのも、製品が優れていたこともありますが、背景には情報の価値の高まりがあるといえるでしょう」
S4900開発に携わったメンバーたちは、すでに次期最先端機種の開発に着手している。ハイエンドのストレージの開発には、まとまった期間が必要だからだ。
「今は、機能・性能において業界トップの地位にありますが、これをキープするためにも、次期ハイエンド機種の開発を進めています。そして、エントリからハイエンドまで、スケーラブルな製品群を用意し、ニーズに応えていきます」と滝柳。
「情報を安全に格納したい、遠隔地に情報を分散管理したい、ストレージ統合によってトータルコストを削減したい、というニーズは、今後もさらに大きく膨らんでいくはずです。その意味でも、ソフト、ハード、販促部隊がともにお客様のもとを訪問し、マーケットサーベイを行うことが重要です」と倉知。
「NECには、技術シーズがたくさんあります。しかし、開発ではマーケットインの発想をした方が、間違いなく良い製品ができます。われわれは、なるべくお客様に近いところにいるようにしているため、マーケットのニーズもわかります。
われわれには、スーパーコンピュータやメインフレームの開発で培ってきた"高性能、信頼性を実現する遺伝子"があります。次期機種開発に向け、われわれ技術者のスピリッツが衰えることはありません。常に業界トップクラスの製品を生み出し、エンジニアとしての達成感を味わっていたいと考えています」と菱川は語った。
開発に携わったメンバーの話を聞けば聞くほど、ストレージ開発にかけるエンジニアたちの熱い想いが伝わってくる。そのワールドワイドを見すえた優れた製品性は、揺るがないことだろう。
第20回 (2006年04月28日)