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頑丈なボディに優しいハートを入れるコツ
〜使いやすさも進化した堅牢ノート「ShieldPRO」開発話〜
ノートPCが「タフだ、頑丈だ」というのは曖昧な言い方である。「落としても、雨に打たれても動く」と言えば少し具体的になるが、誰にも分かるのは過酷な環境条件の現場で使ってみることだ。……頭の中にその過酷な現場をいつも想定し、「堅牢さと使いやすさ」を追い求めている技術者たちがいる。彼らが作ったのは、愛称を「ShieldPRO(シールドプロ)」と名付けられた堅牢なノート。
専門用語では「IP54準拠」と表現される防塵・防滴を実現し、90cmからの落下試験もパスした頑丈なボディを持ち、一般のノートPCでは時に耳障りな空冷ファンのないファンレス構造ながら-20℃〜50℃の広い動作温度範囲を謳うファクトリコンピュータFC-NOTEシリーズ「FC-N21S」だ。技術者たちのリーダー・中野智視に開発話を聞いた。
NEC
「どこで何をするにもPCが必要とされる時代なのだから、風雨にさらされる野外であろうが、埃や振動の気になる現場であろうが、多少ラフな扱いにも耐えてくれる、もっと身近な工具のように安心して使えるコンピュータがほしい」……広い世間には、こう思っているユーザーが数百万はいるはずだ。そのニーズに応えてくれるのが「堅牢ノート」である。
NECがPC-9801シリーズをベースに、耐環境性、同一モデルの長期供給を特長とした「ファクトリコンピュータ」(工業用コンピュータあるいは産業用コンピュータと呼ばれることもある)を他社に先駆けて製品化したのは20余年も前のことである。それ以来ゆるぎないトップシェアを誇る。
そのファクトリコンピュータ、略して「FC」のラインナップへ堅牢ノートFC-NOTEシリーズが加えられたのは2004年のことである。
このFC-NOTEシリーズの初代機は市場調査と短期間での製品化のために、ベースユニットを海外からOEM調達したものだった。これで堅牢ノート市場への参入に手応えは得られたが、お客様から寄せられる要望の「軽量化」、「求めやすい価格」、「使い勝手を考えた機能の充実」などへ十分に応えることが出来ず、歯がゆい思いが鬱積したと胸のうちを明かす。
思い通りの製品を実現するには自前で設計・製造を行なう内製化しかないと思い詰めていたところへ、上司が堅牢ノートビジネスの成長性を見極め、多額の開発投資を獲得すべく事業本部内を奔走してくれたという。もちろん、多大なリソース投入を伴うため、市場調査や事前技術検討・評価を行ない、事業部内で何度も開発検討会議を重ね、正式に開発着手したのは昨年の初春だった。
最も苦労したのは、落下試験に耐え得る強靭な筐体と防塵防滴の実現だった。
「壊しに壊しました。最近話題の多いモバイルノート、競合他社製品の堅牢ノートはもちろんのこと、落下時の応力解析を行うために作った『弁当箱』と呼ぶ板金による手製試作品、乗用車が1台買えるくらい高価な、金属塊から削り出した『削り出し筐体』を使った試作品、高額投資を伴う金型で作った筐体による試作品まで。何度も何度もしつこいくらい落下試験を繰り返しました。」
淡々と話すが、『削り出し筐体』を1台作るのには乗用車が1台買えるくらい費用が掛かるものらしい。
「単に落とすだけでなく高速カメラでビデオ撮りして弱点を分析したり、3次元CADで応力解析を行い設計の方向性を探ったり、悩みに悩みました。」
壊す、解析する、対策の手を打つ、また壊す……この繰り返しをやったのだ。

防塵・防滴の専門的な評価基準としてはIEC(国際電気標準会議)の定める529規格と米軍のMIL(国防省軍用規格)の810Fがある。IECのうち、水や異物侵入の保護等級を定めたのがIP(International Protection)で、「IP54」とあれば「5」は「粉塵が内部に侵入しても運転を阻害しない」レベルを、「4」は「水の飛沫に対する保護」レベルを指す。
「『IP54』の実現にもてこずりました。広い温度範囲の実現や振動・衝撃対策はこれまでデスクトップ型や省スペース型のFCで少なからず経験と知識を有していますが、まさか水をかけるなんて…。」
「衝撃吸収性と軽量化を両立してくれるマグネシウム合金ダイカスト筐体で生じる製造上の寸法・形状ばらつきが、筐体の噛み合わせ部にわずかな隙間を作るので、これを抑えるため一定間隔で筐体同士を固定するのにネジを多用しました。」
こんなにネジの多い装置は初めてだと笑う。なんと1台の装置に使われているネジは140本を越えるらしい。
「それでも水は入って来る。そこで考えました。どうしても入るものは入る前提で考えよう。つまり、筐体の外側の勘合部分には僅かながら隙間が生じやすいので、仮に水が浸入しても、これ以上先へは浸水させないぞという仕切りを内部へ設けました。また、勘合部の隙間から浸水した水を逃がすための排水孔を開けました。」
なるほど、筐体の底面を見ると排水孔と思われるスリットや丸い孔があちらこちらに散見される。
また、裏蓋を開けてもらうと、内部に仕切りと思われる壁の存在が確認された。
MILには高温、低温、振動、衝撃などの仕様も定めている。中野らはこれを自分たちの実現目標にし、実験を繰り返したのだった。
「これらを『設置環境条件』として製品パンフレットにも明記しました。単に"頑丈だ、タフだ"と言うよりも『こういう環境に耐えるものとして作った』ということをはっきりと書く。そうすることで、使っていただくお客様と私たちの間に評価の"ものさし"が共有できます。そして、次の改良にも役立てられます。これはファクトリコンピュータFCとしての自負の表明です。」どうも筆者には、この設置環境条件表記が彼らの誇りに思える。
「こだわったのは重量と画面サイズです。使いやすさを考えると、画面は12.1型ディスプレイが良いとすぐに決まりました。NECパーソナルプロダクツのモバイルノート「UltraLite」が同じ画面サイズながら1Kgを下回る軽量化を実現していますが、温度範囲や耐振動・耐衝撃性などの堅牢性及びバッテリ駆動時間8時間(JEITA測定法に基づく)を求める堅牢ノートとして重量2.5Kgはリーズナブルな範囲です。」
「また、広い温度範囲を売りにする以上は低温下での起動時における輝度低下を何とかしたくて、NEC液晶テクノロジーに頼んでLEDバックライト方式による液晶モジュールを開発しました。」
その画面を開いて回転すればタッチパネルになるタブレット型PCのようにも使える。
これは使い勝手が良さそうだ。
「それと野外に持ち出すのですからセキュリティにもこだわりました。これも堅牢さの一種ですね。セキュリティチップを搭載し、暗号キーなどの情報を安全に管理できるほか、指紋認証や盗難防止用ロック等、セキュリティ対策を行っています。」
ファクトリコンピュータ FC-NOTEシリーズ ShieldPRO
NEC
「ShieldPRO(シールドプロ)」は、2006年12月発表で、今年1月末から出荷され販売店中心に売られている。その評判を「ものすごく良いです」と語るのは、NECの放送・制御本部制御端末販売部の川中崇功である。
「野外で工事をする現場一般、防犯・防災や防衛、車載利用の輸送……この『ShieldPRO』の用途はどこまでも広がっていて、従来のFC市場より広いと思います。また、一般ユーザーでも頑丈なノートPCを求める層が増えてきています。今まで区分されていなかったグレーゾーンに大きな需要があると感じています。僕らの役目は、その市場を見つけ、お客様や販売店の反応やニーズをつかんで中野さんたち開発チームにフィードバックすることです。新人としてはラッキーな仕事、ラッキーなパートナーにめぐり合えたと感謝しています。」
「ShieldPRO」の事業化推進ペースは速い。中野らは、すでに3月に出す派生モデルの仕上げにかかっているという。派生モデルというのは、いわばオプションモデルで、たとえば、キーボードにバックライトをつける。キーボードカバーをつける。OSをLinuxにする。ハードディスクの代わりに"シリコンディスク"と呼ぶフラッシュメモリへOSをプリインストールして内蔵する。英語OSのプリインストールモデルを用意する……という具合に、ユーザーの選択肢を広げるものだ。そればかりではなく、すでに次機種の構想もあるらしい。マル秘を承知で聞き出すと、「もっと高性能なCPUを搭載したい、CD/DVDのような光学系ドライブを内蔵できるようにしたい」らしい。だが、「それには放熱対策や振動・衝撃対策が必要で、そうなるとさらに重く、大きくなりかねないことが悩みのタネ」といった事情があるようだ。
「そのために、研究所にも冷却技術の研究や、振動衝撃対策の研究などをお願いしており、NECの技術を結集して技術課題の壁を打ち破りたい」と意気軒昂である。
筆者が、門外漢の気楽さで、「デザインをもっと若向きにカラフルにしたら」と言った時、中野の目が輝いた。「なるほど、どうすれば?」と聞く。また、自分の課題が増えるのが楽しいのだ。それにこの食いつき方からすると、次機種はポップな外観になっているかもしれない。
こんなペースで仕事が進むのでは、休む閑もないだろうに、家庭の方はどうなっているのか?と遠慮なく聞いた。「はい、遅く帰っても夕飯(夜食に近い)は家で食べる」と言い、「奥さんは、『いつ、会社辞めてもいい』と言ってくれます」との答え。無論、奥さんの真意は、「無理したり、気負い過ぎないでね」という労(いた)わりだ。
個人的意見だが、夢中になって仕事をしている技術者には、「無理」や「気負い」は無縁だろう。中野の場合も「ShieldPRO」に夢中なのだ。とはいうものの、チームリーダーとして、マネージャとしての職責もある。そのあたりのバランス感覚というか才覚がないと勤まるものではない。
前出の川中は、中野を評して「いつでも優しい、でもめげない人」と評したが、同様の人物評を中野の部下たちからも聞いた。たとえば構造担当の打越雅広は「中野さんはポジティブな人、いつも前向きです」と言うし、装置設計や生産準備担当の五十嵐亜矢は「絶体絶命というようなピンチが何度かあったけど、しぶとく切り抜けてしまう」と言う。他にも離席していたが、装置まとめの杉本雅彦や派生モデル担当の柳澤博といった部下もいる。
横で聞く中野は「持ち上げ過ぎ」だと笑うが、どうやら彼らの職場では中野に限らずどっぷりと「ShieldPRO」へ浸かって多忙を極めているにも関わらず、チーム全体がいつもそのように明るく、難題へも前向きに取り組んで解決して行こうという雰囲気があるのだろう。
逆に中野の部下評がおもしろかった。「困ってるんです。仕事ばかりしている僕を見て、『ああは、なりたくない』と言うくせに、遅くまで頑張っている。」
開発メンバーがそこまで夢中になって取り組む「ShieldPRO」にはこれからもどんどん進化してゆく可能性が確かにあり、それを推進する技術者たちの熱い情熱が感じられた。
中野氏と彼のスタッフたち
※開発時の実験の様子をご紹介したプロモーションビデオをご覧いただけます。
動画はこちら
第21回 (2007年2月1日)