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Financial Review
電子マネーがもたらす決済サービスの構造変化(その1)

昨年の4月に流通系の電子マネー(nanaco、WAON)が導入されてから1年が経過した。電子マネーの各ブランドとも様々な販促施策や提携を行って普及を図っており、電子マネーは順調に普及し利用が広がっている。過去のさまざまな実証実験の経験を積んで普及に漕ぎ着けたものであるが、主力業者のEdyを運営するビットワレット社が巨額の赤字を計上する等、現状電子マネー事業単体では収益性が厳しい。最近の電子マネーの動向を紹介する。

原口 博臣

1.マーケットの最近の状況

昨年の4月に二大流通系の電子マネー(nanaco、WAON)が導入されてから、約1年が経過した。それぞれの電子マネーの発行枚数は1年で各ブランドとも増加しているが、nanacoの発行枚数は1年で1千万枚を目標に対して、590万枚程度にとどまる見通しとなっている(図表1参照)。
これらの他にも広島(PASPY)、福岡(nimoca)などの地方都市で相次いで交通系の電子マネーが導入されており、ブランドが乱立気味の様相を呈している。一方技術面では、ほとんどの電子マネーのICにFelicaが採用されており、Felicaが標準として確立された。

(図表1)各種電子マネーカード発行枚数の2008年4月末の状況と1年前との比較
)各種電子マネーカード発行枚数の2008年4月末の状況と1年前との比較

(資料)各種資料より作成

電子マネーのICカード発行枚数は2007年から2008年にかけて合計で1億枚を超える見込み。

(図表2)電子マネー発行金額残高の実績と予測
電子マネー発行金額残高の実績と予測

(出所)野村総合研究所「企業通貨マーケティング」
(図表3)日本におけるポイント・マイレージの年間発行額予測
日本におけるポイント・マイレージの年間発行額予測

(出所)野村総合研究所「企業通貨マーケティング」

 電子マネーの取扱い金額は今年度で約1兆4千億円と急拡大を遂げている(図表2参照)。これとは別に、ポイント・マイレージの市場規模も7千億円を超える規模となっている(図表3参照)。もっとも国内の家計最終消費支出額は291兆円であるため、個人の決済金額の全体の中で電子マネーが占める割合は1%に満たず、ボリューム的には決済手段の一翼を担うという存在までにはなってない。また、3000円以下で見た家計消費支出の小額決済市場規模は約60兆円といわれており、これらの決済は主に現金で取扱われているので、この市場を中心に現金から電子マネーへのシフトは今後も進むと見られる。(2012年予測は3兆2千億円と2008年の2.4倍の規模)

2.主力事業の経営戦略(SuicaとEdy)

 電子マネー発行業者は、専業系、交通系、流通系、クレジット系と10社以上があり、すでに過当競争状態にある。その中でも利用場所を確保した流通系、交通系が利用件数金額を伸ばしている。以下では代表銘柄といえるEdyとSuicaの2社の戦略について見てみたい。

(1)Edy(ビットワレット株式会社)の戦略
1)業績
 Edyは2001年11月にサービスを本格スタートさせ、日本の電子マネーの先駆けとしてカード発行枚数や加盟店を増やし、電子マネーの普及に多大な貢献をしてきた。
その一方でビットワレット社の経営状況は、2008年3月期(第8期)売上高41.5億円に対して最終損益は68億円の赤字を計上(2001年設立以来7期連続の赤字)し、きわめて厳しい状態が続いている(図表4参照)。
電子マネー事業は、加盟店獲得やシステム開発に初期投資がかかるという事情があるが、電機機器メーカーや金融機関等から増資を繰返して資本金363億円を積み上げた同社が未だに黒字化の目処が立たず巨額の累損を抱えている状況は危機的といえる。

(図表4)ビットワレット社の業績推移
ビットワレット社の業績推移

(注)2000年期は創業時のため2ヶ月決算。各種資料より当方作成

2)ビジネスの現況・課題
 Edyは銀行の預金とは異なり、フローに対してストック(残高)は小さく、平均して未使用残高(ストック)は利用金額(フロー)の約6%(推計)となっている。これは利用者は、こまめにチャージして利用する都度、利用するだけの金額をチャージしてあまり残高を残さないようにしているためだと思われる。
Edy自体は、ソニーのFelicaの非接触ICカード技術を活用したプリペイド型電子マネーであって、ICの中に価値情報、残高情報を書き込んでいる。また、上限金額はビットワレット社が5万円を上限に設定しており(1回のチャージ金額の上限は2万5千円)、一度チャージしたら原則として現金化できない。
ビットワレット社は、バリューイシュア(クレジットカード会社や銀行等のプリカ法の登録事業者)と利用者・加盟店間のシステム運用を担うことになっており、バリューイシュアはビットワレットに対して、Edyの発行にかかるシステム運用、加盟店からのEdyの買取りを委託しているという形態をとっている。

(図表5)Edyのビジネススキーム
Edyのビジネススキーム

(出所)ビットワレット社金融庁プレゼン資料

 Edyは、これまで利用決済件数で首位を占めていたが、nanacoとSuicaに抜かれ、この6月に初めて3位になった。nanacoが全国のセブンイレブンや、イトーヨーカドーで使えることから月間の利用件数が3000万件を超え首位に立ったためである。
 ビットワレット社が運営するEdyは、クレジットカードからのチャージの際に、クレジットカードにポイントを付与するサービスがあったが、クレジットカード各社の貸金業法改正に伴う上限金利規制の結果による経営悪化の影響のため、クレジットカード会社がポイント付与を取りやめた。また、コンビニ収納代行をEdyで支払うことができなくなるようにするなど、相次ぐ制度変更に伴い利用者離れがみられる。
 このため、同社は割引クーポンを付与したり、販促・マーケティング支援に乗り出すなど加盟店支援サービスに注力し付加価値を高めようとしている。また、auの携帯電話のFelicaおさいふケータイ機能を利用したEdyで支払いをした場合、200円毎にauポイントが付与されるサービスも開始することや、amazonで利用できるようにするなど、さまざまな業界と提携を行いEdyの利用範囲を広げ、巻き返しを図る戦略をとっている(図表6参照)。

(注)Edyを運営するビットワレット社は、ユーザー数、トランザクションデータ量が大きいほど、将来に渡り付加価値の高いサービスや新しい生活価値が提供できるとの考え方から電子マネーの発展を次の3段階で捉えている。
 1)決済CRMプラットフォームとして拡大
 2)決済データに基づく、新しいマーケティングの提供
3)新しいライフスタイルの提供

(図表6)Edyの発展の可能性
Edyの発展の可能性

(出所)ビットワレット社金融庁プレゼン資料

(2)Suicaの戦略
 Suicaは、これまでは乗車券用途以外では“駅なか”店舗での利用が主であったが、イオンやファミリーマート等の加盟店化により急速に“街なか”での利用が拡大してきた(図表7参照)。
 そもそもSuicaは2001年に乗車券として始まっており、電子マネーとして使えるようになったのは、2004年からと、Edyに比べると後発である。乗車券はプリカ法の適用除外になっており、開始時点では財務局への供託金の供託もなかった。当初JR東日本はSuicaを鉄道インフラの改善策として位置付け、磁気改札機の更改時期到来による機器更改、磁気改札機の機械駆動部分のメンテナンスコストの削減を目的としてICカード乗車券の導入を開始した。導入開始3年後に電子マネーとしての活用し始めたことは、あくまでも2次的な利用目的として始まった点がEdyとの違いといえよう。このため、JR東日本はSuica事業の採算を電子マネー単体で考える必要はなく鉄道事業も含めた範疇で考慮していると思われる。
 利用件数は「電子マネー元年」と呼ばれる2007年に急増している。これは2007年3月にPASMOとの相互利用を開始したことが大きく寄与している。また、ICOCAやTOICAなど、本州JR会社との相互利用を開始し、2009年にはJR北海道、JR九州でもICカードの導入が予定されており、JR系の電子マネーの普及が見込まれている。

(図表7)Suica電子マネー利用件数および利用可能店舗数の推移
Suica電子マネー利用件数および利用可能店舗数の推移

(出所)JR東日本Webページ P.57


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