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プレスリリース



固体素子を用いて2ビットの量子絡み合いを初めて実現
− 量子コンピュータの実現に向けて大きく前進 −

2003年02月20日

理化学研究所
日本電気株式会社

理化学研究所(小林俊一理事長)とNEC(西垣浩司代表取締役社長)は、世界で初めて、固体素子で構成される量子コンピュータの基本素子2個を結合した実験で、"量子絡み合い"状態を実現し、量子コンピュータの実現に向け、大きく前進しました。蔡 兆申(ツァイ・ヅァオシェン)NEC基礎研究所主席研究員/理研フロンティア研究システムチームリーダー(巨視的量子コヒーレンス研究チーム)らの研究グループによる研究成果です。
現在のコンピュータをはるかに越えた情報処理能力を持つと期待される量子コンピュータは、「量子ビット」と呼ばれる「0」と「1」を重ね合わせた物理状態(量子重ね合わせ状態)を演算単位として使います。NECでは1999年、超伝導体を用い、固体量子ビット1つの動作制御に世界で初めて成功しました。しかしながら量子コンピュータの実現には、量子重ね合わせ状態と並んで、"量子絡み合い"状態と呼ばれる複雑な量子状態の生成が不可欠です。2量子ビットを用いた量子絡み合い状態は、これまで固体素子では実現されていませんでした。量子絡み合いとは、複数の量子ビット間の状態が、量子力学の法則に従って、あたかも1つの物体であるかのように振る舞い、分離できない状態を形成することです。量子絡み合い状態の実現により、量子重ね合わせで用意された多数の量子ビット間の相互作用が可能になり、超高速な論理演算が実行できます。今回、量子ビット2個を微小なコンデンサーでつないだ固体回路を作り、量子絡み合いを出現させる操作法を考案し、2量子ビットを動作させることに挑みました。その結果、量子ビット間の量子絡み合い状態の生成に初めて成功しました。
量子重ね合わせと量子絡み合いの両方の状態が固体素子で実現できたことにより、今後は、これらの量子ビットを集積した論理演算回路の開発に取り組み、量子コンピュータの実現を目指していきます。本研究成果の詳細は、英国の科学雑誌『nature』(2月20日号)に掲載されます。

  1. 背景

    電子や原子のような微小な世界では、私たちが日常生活で経験する物理法則とはまったく異なった量子力学と呼ばれる物理法則が支配しており、粒子は同時に波としての性質を持つようになります。電子を例に取ると、量子の世界では電子波として空間的に広がった存在になります。量子コンピュータとは、このような電子などの量子力学的状態を利用して演算するコンピュータです。この技術が実現すれば、現在のコンピュータをはるかに越える計算能力を持つ(現在では数千年もかかるような数百桁の数字の素因数分解が数十秒にして解ける)と期待されています。量子コンピュータは、革新的なアイデアであったものの、実用的な応用は未開拓でした。しかしながら1994年、AT&Tリサーチ(米国)のピーター・ショー(Peter Shor)によって具体的な素因数分解のアルゴリズムが発見されて以来、暗号解読や膨大な情報処理演算に有効と期待され、研究が盛んになってきました。
    量子コンピュータは、具体的には「量子ビット」と呼ばれる演算単位で計算します。量子ビットは、「0」と「1」という2つの量子状態を波と同じように重ね合わせることで同時に実現します。この重ね合わせができるのは、原子や分子などが量子力学的な波の性質を持っているからです。このようにして「0」と「1」を同時に実現できる事が量子ビットの優れた点です。量子コンピュータ実現の鍵となるもう一つのポイントは、量子の絡み合いと呼ばれる量子力学特有の現象です。量子絡み合いとは、複数の量子ビット間の量子状態が、量子力学特有の法則に従って、空間的には互いに離れていても、あたかも一つの物体であるかのように関係し合うことで生まれる状態です。重ね合わせは古典的な波動を使っても作り出せますが、絡み合いは量子系でのみ実現する量子力学特有の効果です。N個の量子ビットを考えた場合、量子絡み合いは図1で示したような劇的な効果を生みます。量子絡み合いが無い場合には、重ね合わせで作られた量子状態は、もつれ合っていないのでN個の独立した量子ビットに"ほどく"ことができます。この場合量子状態はN個の独立した情報量しか取り扱えません(情報量はNに対しての線形に増加する)。しかし量子絡み合いがある場合には、量子状態は複雑にもつれ合っていて、N個の孤立した量子ビットに分けることができません。このような複雑な量子状態では、2のN乗個の独立した情報量を同時に扱う事ができます(情報量はNに対しての指数関数的に増加する)。これはN個のビットがとりうるすべての組み合わせに相当する膨大な情報量です。量子絡み合いにより一体となった量子状態は、局所的な量子ビット操作が全体の量子状態に影響をおよぼすことができるので、超高速情報処理が実現します(図2)。従って量子絡み合いこそが、高速な情報処理をする量子コンピュータを可能とさせるものです。
    NECでは1999年、超伝導体を電極とする微小ジョセフソン接合を用いた単一電子対箱で量子ビットを構成したゲート電圧パルスにより、電子対箱中の電荷量を制御し、量子の重ね合わせ状態を実現することで、固体電子素子による量子ビット一個の動作に世界で初めて成功しています(図3)。一方、上述のように、実際に量子コンピュータ実現するためには、量子絡み合い状態の生成・制御が必要です。固体素子を用いた量子ビットに関しては、NECでの成功の後、量子重ね合わせに関する数種類の論文発表がありましたが、量子絡み合わせに関する報告はありませんでした。そこで、研究グループでは、固体量子ビット2つをコンデンサー結合し、量子絡み合い状態の実現を目指しました。

  2. 研究成果

    研究グループでは、1量子ビットでの制御技術をベースに、2つの量子ビットからなる新しい回路を作製し、パルス電圧により2つの量子ビットで同時に量子振動を起こさせて量子ビット間の共振状態を起こし、量子絡み合い状態を実現しました。具体的には、図4(写真)に示したような2つの量子ビットを微小なコンデンサーにより結合した素子を作り、量子絡み合いを出現させる操作法を考案し、実験を行いました。図4には、この素子の模式図を示しています。各量子ビットはジョセフソン・トンネル接合(図4模式図の青い部分)を介しそれぞれの電源端子に接続されています。ジョセフソン接合とは、超伝導体を弱く結合し、その間を超伝導電流が流れる接合です。右の量子ビットは、電源端子からの電子対の最大のトンネル確率(ジョセフソンエネルギー)を磁場で制御できる超伝導量子干渉ループを持っています。また、共通のパルス電圧ゲートのほか、おのおのの量子ビットに直流ゲート、プローブ電極、電源端子が備わっています。
    新しく開発した素子は、パルス電圧ゲートと2つの直流ゲートに加える電圧で、それぞれの量子ビットを独立に量子振動させることができます(図5a)。第1ビットは13.4GHz、第2ビットは9.1GHzで振動しています。さらに、ゲートのバイアス条件の調整により、2つの量子ビットを同時に振動させることができます。このとき、2つの量子振動が共振(ビート)を起こし、より複雑な振動パターンが観測されました(図5b)。これはちょうど、2つの振り子を緩くつないだ理科の実験で、両方を静止させた後に片方を揺らすと、この振動が2つの振り子の間を往復する「うなり」と呼ばれる現象と良く似ています。2ビットの場合は、1ビットと違い、振動スペクトルのピークが2つあり、観測された振動の振幅とスペクトルの特性は、理論的予測とほぼ一致しました。このビート振動に関与する複数の量子状態が強く絡み合っていることが、それぞれの量子状態の大きさ(波動の振幅)を調べることで分かりました。これは、固体量子ビット2個を用いて、量子絡み合い状態が実現できたことを、世界で初めて示したものであり、量子コンピュータ実現へ大きく前進するものです。

  3. 今後の展開

    今回、2つの量子ビットを量子的に結合し、量子絡み合い状態の生成と制御に成功しました。量子コンピュータは、1量子ビットの重ね合わせの制御と、2量子ビットの絡み合いを用いた論理演算操作の組み合わせで構成できる事が理論的に知られています。実用的な量子コンピュータの実現には、これら多数の量子ビットの集積化が必要不可欠です。今後は、これらの成果を基に固体量子コンピュータの実現を目指していきます。

以上


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