NECはこのたび、サブ0.1μm世代の低消費電力デバイス製造を可能にする、High-Kゲート絶縁膜(注1)を適用したトランジスタの開発に成功いたしました。本トランジスタは、シリコン酸化膜を用いたトランジスタとほぼ同等の出力電流を保ちつつ、リーク電流を大幅に低減できます。
今回開発した技術は次の通りです。
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High-Kゲート絶縁膜としてハフニウムシリケート膜を用いることで、シリコン酸化膜を用いた場合に比べて、トランジスタのゲートリーク電流を100分の1にまで低減。 |
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High-Kゲート絶縁膜中の電子トラップ量を低減することで、シリコン酸化膜ゲートトランジスタとほぼ同等の高い出力電流を実現。 |
これにより、誘電率の高いHigh-Kゲート絶縁膜をデバイスに適用しても、低消費電力、高速処理動作を同時に実現することが可能になりました。本技術を用いれば、最先端の微細デバイスを携帯電話等のモバイル機器に適用しても、バッテリー使用可能時間を短くすることなく高速処理するSOCを作ることができ、モバイル機器のさらなる普及に貢献できます。また、本技術は、高速処理端末の電力負荷を減らすことにも寄与するため、環境にやさしい技術でもあります。
近年、高速・低消費電力化に向けたLSI微細化技術の開発が着々と進められておりますが、これまで次のような問題がありました。
(a) |
トランジスタのゲート酸化膜は、微細化に伴う薄膜化により、2nm以下に達すると、ゲートリーク電流が増大し、消費電力も大幅に増大するため、最先端の微細デバイスをモバイル機器に適用した場合、ゲートリーク電流により、モバイル製品のバッテリー使用可能時間が短くなる。 |
(b) |
ゲートリーク電流の増大は、物理膜厚が薄くなるために起きるトンネル電流が原因である。このトンネル電流は、シリコン酸化膜に比べて誘電率の高いHigh-Kゲート膜を用い、電気的換算膜厚(注2)を2nm以下に保ちつつ、物理膜厚を厚くすることで抑制できるが、従来のHigh-Kゲート技術においては出力電流が劣化してしまうという問題があった。 |
このたび、High-K膜中に電子トラップが存在すると、その電荷によりトランジスタチャネル部を移動する電子の流れを阻害する(リモートクーロンスキャッタリング)ために、出力電流が低下することを突き止め、電子トラップを低減できるプロセス技術を開発いたしました。これらの開発をもとにHigh-Kゲートトランジスタを試作し、シリコン酸化膜比で95%程度という高い移動度が得られることを実証いたしました。
NECでは、モバイル機器の性能向上のために、このたびの研究成果の早期実用化を目指して研究・開発を加速してまいります。
(注1) |
High-Kゲート絶縁膜とは、シリコン酸化膜より誘電率の高い絶縁膜である。誘電率が高い絶縁膜を用いることで、リークが少ない厚い絶縁膜厚で、薄い酸化膜と同等の電気的換算膜厚が実現可能である。 |
(注2) |
High-Kゲート絶縁膜の電気的換算膜厚とは、ある厚さのHigh-Kゲート絶縁膜が示す容量に対して、それと同じ容量値を示すシリコン酸化膜の膜厚を指す。例えば、物理膜厚が2nmのHigh-K膜(誘電率:20)は、シリコン酸化膜に対する電気的換算膜厚は0.4nmである。 |
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