NECはこのたび、カーボンナノチューブ(以下CNT:注1)トランジスタの安定的な製造技術を開発し、本技術を用いて製造したCNTトランジスタでは高速動作性能を表す指標(相互コンダクタンス:注2)の値が、現在のLSIの基本素子であるシリコンMOSトランジスタと比べて10倍以上あることを実証しました。
このたびの成果は、以下の技術開発により、実現しました。
(1)シリコン基板上に形成した触媒から任意の位置にCNTを成長させられる触媒化学気相成長法を開発して、従来の製造プロセスで課題であった基板へのCNT塗布時の品質劣化を克服し、高精度なCNTの位置制御を実現。
(2)CNTとの接触抵抗の低い電極作成プロセスを開発し、CNTと電極との接続部分の電気抵抗を大幅に低減。
これらの技術開発により、安定的にCNTトランジスタを製造することが可能になりました。
このたびの開発をもとに試作したCNTトランジスタを評価した結果、シリコンMOSトランジスタの10倍という極めて高い相互コンダクタンス値を示していることを実証しました。試作したCNTトランジスタの特性は、電極(ソース・ゲート)間の寄生抵抗で制限されているため、この影響を除いた本来の特性はシリコンの20倍にも達することが分かりました。今回の研究成果は、CNTトランジスタが将来のユビキタスIT社会を支える高性能電子デバイスとして大きな可能性を秘めていることを示しています。
従来、CNTトランジスタは、CNTの合成、基板へのCNTの塗布、電極形成などの工程を経て作製されていました。しかし、基板にCNTを塗布する際の位置制御性が悪いことや、作成に多くの工程を経るため製造時のプロセスダメージにより、使用するCNTの品質が劣化することなどの課題がありました。また、従来の電極ではCNTとの接続部分の電気抵抗が大きいため、CNT本来の特性の系統的な評価が困難でした。
NECでは、今後さらにCNTの成長制御、電気特性制御、デバイス構造設計、製造プロセス開発などの高度化を進め、2010年ごろのCNTトランジスタの実用化を目指します。
この成果は2003年9月16日から18日にかけて東京で行なわれる国際固体素子・材料会議(SSDM)で18日に発表します。
なお、このたびの技術開発の一部は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)からファインセラミックスセンター(JFCC)に委託された「ナノカーボン応用製品創成技術プロジェクト」の一環として行なわれました。
(注1) |
カーボンナノチューブ(CNT):
CNTは1991年に飯島澄男博士が発見したナノメートル径の円筒状炭素結晶です。その材料の持つ特異な電気的・機械的な性質は大きな注目を集めており、基礎研究・応用研究が盛んに行なわれています。CNTは、エレクトロニクス分野への応用面で、小さい直径にもかかわらず大きい電流を流せることや、電子速度がLSIに使われているシリコンよりも大きいことが予測されており、高速動作が可能なトランジスタのチャネル部分への応用が期待されています。 |
(注2) |
相互コンダクタンス:
トランジスタの性能を測る重要な指標。入力(ゲート電圧)の変化に対してどれだけ大きい出力(ドレイン電流)の変化が得られるかを示す。この値が大きいほどトランジスタは高速に動作できます。 |
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