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ホーム > ニュース > プレスリリース > SPring-8の高輝度放射光を利用しナノ粒子表面反応のリアルタイムその場観測を実現

SPring-8の高輝度放射光を利用しナノ粒子表面反応のリアルタイムその場観測を実現 -燃料電池電極触媒の劣化現象の直接観測に成功-

2009年4月30日
財団法人高輝度光科学研究センター
日本電気株式会社

高輝度光科学研究センター(以下「JASRI」、理事長 吉良爽)は、日本電気株式会社(以下「NEC」、代表取締役執行役員社長 矢野薫)と共同で、大型放射光施設SPring-8(※1)を用いて水溶液中のナノ粒子の表面構造変化をリアルタイムで観測する手法を開発し、燃料電池(※2)の電極触媒の劣化メカニズムを原子レベルで明らかにすることに成功しました。

JASRIとNECが開発した手法は、エネルギー分散型XAFS(図1)と高エネルギーX線回折法とを組み合わせたもので、化学反応が起こる触媒ナノ粒子の最表面の構造をミリ秒間隔で観測することができます。この手法を用いて燃料電池の白金触媒の劣化現象を観測したところ、白金ナノ粒子の最表面の酸化層でα相からβ相へ体積膨張を伴う不可逆な結晶構造変化が起こっており、それが溶出劣化を引き起こしていることが明らかになりました(図2)

燃料電池は水素と空気中の酸素から電気エネルギーを生み出すデバイスで、環境・エネルギー問題の解決に貢献するため、高性能化、高信頼性化に関する研究開発が世界中で進められています。その性能は水素と酸素の電気化学反応を促進する白金のナノ粒子からなる電極触媒によって決まるため、触媒の性能や寿命を高めることが燃料電池開発のポイントになります。しかし、燃料電池の動作中に電極触媒の白金成分が溶け出し触媒の性能が低下するという問題があり、実用化を困難にしています。その解決には原因の究明が重要ですが、水溶液中の触媒に生ずる現象を直接調べる良い手段がこれまでありませんでした。

今回JASRIとNECが開発した手法は、水溶液中のナノ粒子の触媒作用を直接原子レベルで観測するものであり、高い安定性・信頼性をもつ燃料電池の開発にも貢献するものと期待されます。

なお、今回の研究成果は米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society」2009年5月6日号に掲載されます。

1.研究の背景

環境・エネルギー問題を解決し地球環境にやさしい持続型エネルギー社会を実現させるため、燃料電池の実用化ならびに早期の広範な普及を目指して、現在 世界レベルで研究開発が進められています。
燃料電池は、水素と空気中の酸素の化学反応のエネルギーを電力として取り出すデバイスで、太陽電池、風力発電に比べて大きな出力を取り出せることが特徴です。家庭用に限らず、自動車や携帯電子機器向け電源としても利用が検討されています。燃料電池の性能は水素と酸素の反応を促進する電極触媒の性能によって支配されるため、電極触媒の性能や安定性・信頼性を高めることが開発のポイントとなっています。
しかし、燃料電池の長期運転時に電極触媒の白金成分が溶出し性能が劣化してしまうという問題があり、実用化の障害となっています。燃料電池の電極は、水分を多く含む固体高分子電解質膜や触媒を固定するための高分子成分に覆われた状態で使用されます。また、触媒反応はナノスケールの超微粒子の表面数層のみで起こります。このように燃料電池の電極は電解液中に置かれ、かつ微細な構造を有するため、実際の燃料電池動作環境で白金触媒成分の溶出現象を直接観測する方法はこれまでありませんでした。そのため、いつ、どのような理由で触媒の溶解が生じるのかは、明らかにされていませんでした。

2.研究内容と成果

今回、JASRIとNECは、SPring-8の強力なエックス線を利用し、かつ相補的な複数の構造解析手法を組み合わせることで、溶液中にあるナノ粒子の最表面の構造変化をリアルタイムで捉える手法を確立しました。
燃料電池のような電気化学系での反応は室温付近の比較的低温で起こるため、触媒の構造変化は、ナノ粒子であっても最表面あるいは数層のみで不均質に起こります。
そうした不均質な構造変化を捉えるため、我々はX線吸収微細構造解析(広域X線吸収微細構造(EXAFS))と、X線回折法(XRD)を組み合わせることで、最表面のみの構造情報を抽出する方法を考案しました。EXAFSはアモルファスのような乱れた材料からも局所構造情報を得ることができ、触媒反応では最表面の構造に敏感です。一方、XRDは周期性を持つ構造の情報を与え、触媒ナノ粒子の乱れをもたない内部の構造を反映します。これらを合わせることで、表面と内部の構造情報を分離して抽出することが可能になりました。
さらに白色X線ビームライン(BL28B2)で利用可能なエネルギー分散型XAFS(図1)とアンジュレータにより生成された高輝度X線を利用した高エネルギーXRD(BL16XU (※3))を用いることで、ミリ秒台という高い時間分解能で溶液中に含まれるナノ粒子上の表面反応を追跡することが可能になりました。
実際の燃料電池触媒を用いて溶解劣化現象を観測したところ、白金表面の酸化過程は2段階で進行していることが明らかとなりました。酸素原子が白金の表面に吸着、内部へ拡散して白金酸化物層が形成されますが、それがほぼエピタキシャルに成長(※4)した構造を持つα相であるうちは、可逆的に白金まで還元されることが可能で、溶解は起こりません。しかし、さらに酸化が進み、α相から体積膨張を含むβ相への構造転移が起こると可逆的に白金へ戻ることはできなくなります。白金触媒の溶解劣化は、このβ相の形成に起因していると考えられます。
触媒の溶解現象が直接観測可能になり、そのメカニズムが明らかになったことで、今後、燃料電池の運転モードや触媒材料の改良などにより、実用化レベルの燃料電池の開発が加速されると期待されます。

3.今後の展開

今回開発した手法は、動作環境において触媒ナノ粒子表面に生じる構造変化を直接原子レベルで観察するものであり、高い耐久性を持つ触媒の開発に大変有効であると考えられます。これにより、燃料電池の長期信頼性の問題が克服され早期の実用化が可能になると期待されます。さらに本手法は大気中、溶媒中などさまざまな環境にも有効であるため、燃料電池触媒に限らず幅広い分野でナノ粒子表面の構造をリアルタイムに解析することを可能にします。

4.掲載論文

題名: In situ and real-time monitoring of oxide growth in a few monolayers at surfaces of platinum nanoparticles in aqueous media
日本語訳: 水溶液中における白金ナノ粒子表面酸化過程のリアルタイムその場観測
著者: Imai, Hideto; Izumi, Koichi; Matsumoto, Masashi; Kubo, Yoshimi; Kato, Kazuo; Imai, Yasuhiko
ジャーナル名: Journal of the American Chemical Society
発行日: 2009年5月6日

5.参考資料

図1: エネルギー分散型XAFSの原理
エネルギー分散型XAFSとは、白色X線を湾曲させた分光結晶に入射させた際に、回折する角度がX線のエネルギーに応じて異なることを利用した、短時間でのXAFSスペクトル測定が可能な方法である。試料はX線が焦点を結ぶ位置に配置する。検出器にはCCDなどの位置敏感検出器を用いる。測定時に機械的な動作がないため、1/1000秒以下という短時間で測定が可能である。
図2: Pt表面酸化に伴う構造変化。酸化白金のα相は、可逆的に白金に還元される。β相は、不可逆に還元され、白金表面は乱れた構造になる。α相→β相が触媒劣化を誘発する直接的な原因と考えられる。

6.用語解説

※1. 大型放射光施設SPring-8
兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高の放射光を生み出す理化学研究所の施設で、その管理運営は高輝度光科学研究センターが行っている。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8GeVに由来。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、細く強力な電磁波のこと。SPring-8では、この放射光を用いて、ナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われている。
※2. 燃料電池
水素と酸素の化学反応のエネルギーを電気エネルギーに変換するデバイス。水素を導入する電極と空気(酸素)を導入する電極からなる。水素極では、水素が分解しプロトンになる。酸素極では、酸素とプロトンが反応し水が生成する。電極上には、反応を促進するため、白金系のナノ粒子触媒が担持されている。電極間はプロトン伝導性を持つ固体電解質膜で絶縁されている。
※3. BL16XU
NECを含む企業12社及び電力グループで構成された任意団体である産業用専用ビームライン建設利用共同体がSPring-8に有する2本のビームラインのうちの1本。
※4. エピタキシャル成長
下地結晶の上に結晶を成長させる場合、下地結晶の表面原子配列を反映し連続して結晶が成長すること。

以上

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