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1972年東京生まれ。
東京、京都の造園会社で造園技術を学び22歳で独立。庭師として空間デザイナーとコラボレーションによりさまざまなプロジェクトに参画。2006年(株)1moku設立。ニ級建築士。
「ただ眺めるだけではなくて、人が関われる庭。分かりやすく言えば舞台。商業施設においては集客できる庭が、僕の造る庭です」。
細身のスーツにレザーのブリーフケース。1moku代表・菅宏文氏は、メディアが期待するステロタイプな庭師のイメージを裏切って待ち合わせに現れた。
「取材ではハッピ姿を期待されるんですけど、スーツ姿でロックを流しながら、枯山水の庭をシャカシャカ作る方が、ギャップがあっていいでしょ」と、いたずらっぽく笑う。

2005年に菅氏がリノベーションを手掛けた京都・三条京阪の商業施設「KYOUEN」のZENガーデンは、中央に能舞台が設けられ、鏡板に描かれる老松の代わりに本物の松を植栽。石庭にはステンレス、黒御影など、古来の枯山水の庭にはなかった素材が、砂紋と周りを取り囲むモダンな商業空間を映し出す。
「中央の2本の柱は橋を見る人にその間に流れる川をイメージしてもらうための橋脚。柱上部の凹凸は男女、陰陽を表現しています。エロスは僕の作品の一連のテーマですから」と、またいたずらっぽく笑う。彼にとって自分の作品を自分の言葉で語るのも、また一つの庭師としての仕事である。
2007年に店内の庭の改装を手掛けたシャンパン&シガーバー「ル・キャバレ」(大阪・本町)では、垂直の壁に苔を張って人々を驚かせたが、そのテーマもまさにそのエロス。
「初めて店を訪れた時にファサードが胎内への入り口に見えて、直感で苔が浮かび、苔の花言葉=mother’s love(母なる愛)とつながりました。具体的に考えていくうちに、苔を押さえるために貼るラス網は網タイツ、その網タイツからベルベットの苔が露出して行くというエロティックなイメージが増幅して」と、その作風は実にコンセプチュアル。
「自分ではスケッチもあまり書きません。言葉がどんどん広がっていくタイプ。そのイメージを説明するのにCGを使いますが、CGの作成はオペレーターに任せます。ただその表現には納得するまで時間をかける。CGにこだわるのは素材のテクスチャーまで相手に伝えられるからで、単に設計案を説明したいからという目的ではありません。自分の頭の中には、職人としての経験からくる具体的な素材の選定と明確な仕上がりのイメージがあって、それを伝えるには最新のリアルな質感のCG表現が必要なんです」と菅氏。「ル・キャバレ」でもラス網からはみ出すベルベットのイメージを表現するのに、杉苔ではなく地苔の表現にこだわったという。
22歳で独立し、今年14年目を迎える菅氏をさまざまなメディアが「新しい時代の庭師」と取り上げる理由は、本人が「前衛」と呼ぶその庭のスタイルもさることながら、そのプレゼンテーション力だ。村上隆が主催するGEIISAI#8で金賞を獲得、#9ではグッチのバッグに苔を張り付け提案、ルイ・ヴィトンのパーティに招かれたり、というセレブなパフォーマンスも、彼にとっては庭師という存在価値を、“時代”の中で表現するためのプレゼンテーションだ。
「尊敬するのはイサムノグチ、造りたい庭は沢尻エリカが『かっこいいね』と言うような庭」という発言に代表される“時代”のなかでの分かりやすさは、彼が自らの作品をCGでクライアントにプレゼンテーションするのと同じことなのかもしれない。![]()
「CGを使用したのは、美々卯・祇園店のルーフガーデンで水鉢に懸け樋で水を落とし、水紋を宇宙に見立てるという坪庭の提案をしたプレゼンテーションが最初です。その時に、自分が表現したい石のテクスチャーや形がここまで作れるのであればと、それ以降、積極的に導入しました。ただレンダリングに結構時間を取られるのが、職人としては理解できない(笑)。砂紋を表現するのに、砂のテクスチャーにまでこだわるので、それはしょうがないのでしょうね」。
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今回、1mokuがモニタリングで試用した54XfはQ6600(2.40GHz)クアッドコアCPUに4GBのメモリ搭載、グラフィックカードにFX4600を配した最新機種。従来のモデルに比べ、大量データの高速処理効率の向上が図られている。
「伝統的な職人でも、常にその時代の最先端の道具を知っていなければならないし、それを使った表現と、それを形にできる技術が必要」という考え方は、今回のマシンのモニタリングにも意欲的に応じる姿勢に通じている。
1mokuはデザインからプレゼンテーション、地割り、石組み、植栽、施工まで、すべて自分たちでできる職人集団であることが強み。彼らが提案するCGのプレゼンテーション資料には必ず職人の手の写真が添えられる。CGで提案したものは自分たちが本物を作るという自信だ。
兵庫県佐用町の「天然温泉佐用の湯」で手掛けた版築(はんちく)塀は10t車に30台の現地土を使った構造躯体であり、高さ3.8m、長さ30m、厚み1.5mというその質量が訪れる者を圧倒する。近年、土への回帰から商業施設などで注目されつつある左官の版築塀とは一線を画す。その版築塀は、ファッションデザイナーのシンイチロウ・アラカワなどファッション関係のクリエイターと組んで、インスタレーションとして「東京ミッドタウン」で個展も開催した。
「現在、プロジェクトに参加している山形の大型商業施設の中庭のデザインでも、この版築を使ったランドスケープを提案しています。空に抜けたドーム型のジェームズ・タレル的な光の構造体が雪の多い地方には映えるはず」と、そのコンセプトは机上のアイデアにとどまらない説得力を持つ。ただ、悩みはプレゼンテーションにCGが間に合わないことだという。プロジェクトが大規模になればなるほど、テクスチャーにこだわる菅氏のCGの完成には時間を要する。

「現在は弊社のスタッフがヴェクターワークスで作成したCADデータを、インテリアデザイナーの施工会社のデータと合体させてCGのプロが作成するという流れです。近い将来に自分たちでランドスケープや大型施設を手掛ける時には、時間のロスを排除するためにも、自分たちで CGのフィニッシュまで手掛けることが必要。そのためには自社で大容量のワークステーションが必要となるでしょうね」と、セグエンテのハイエンド機種に期待を寄せる。
取材・文/野田達哉